ちぇんじ 後日談⑧
- 2015/05/01
- 14:21
ビーチでクラトスと一緒に過ごして数時間。
そろそろ日も落ちるような空の色。
ホテルに戻ってゆっくりするという提案を呑んだクラトスと引き上げようとしてた時
ちょうどリーガルに会った。
「おお、ゼロス久しいな」
「リーガル、昨日は悪かった俺様機嫌悪くて」
片手を上げて返事をすればリーガルは笑顔で答えた。
「クラトス殿から聞いてるぞ、ゼロス」
「待てっ、それは…」
珍しくクラトスが慌てた声を出す。
この2人一体どんな会話してたんだ?でも話題は俺様のことらしい。
「神子はワガママが過ぎる、と言ってたぞ」
「えっ!?天使サマが?」
俺様我が儘だった?そんなに?
チラッとクラトスに視線を向けると何故かホッとした顔してた。
どうやら心配してた話題ではなかったらしい。急に冷静を装ってたけどもう遅い。
「どうせ、他にも俺様に対して何か文句言ってたんでしょー?」
笑いながら言うと、リーガルはキョトンとした顔をした。可愛くない。体積デカい。
ただのおっさん。でもクラトスが同じ事すると可愛いのは惚れたなんとかってやつ。
「いや、あれは…」
「リーガル殿、それより何か用事があったのでは?」
スッとクラトスが会話に混ざってきて、肝心なところは結局聞けなかった。
そして、例の食事のお誘いだった。どうやらしいなも来るらしい。
人数が増えてて断るに断れない状況を作ったのは狙ったのか偶然なのかわからなかったが
了承するしかなく、俺様はリーガルにちょっとだけ空気読んで欲しいって思った。
あの会話の後、潮風でギシギシと手櫛も通らない髪を洗いシャワーで洗い流した。
俺様の後にクラトスもシャワー浴びてさっぱりしてて
一緒に入る?なんて言ったら無言の圧力を感じて俺様はそれに負ける。
迎えに来るとか言われてたから俺様とクラトスは寛いでて
ベッドに居る俺様は眠たくてしょうがなかったので、来たら起こしてと声を掛けてうたた寝に入った。
ガバッと飛び起きたら、ホテルの室内は暗くてもぬけの殻だった。
何か嫌な夢を見たような気がして目が覚めてみればこの現状。
「あ…れ?置いていかれた…?」
起こしてって言ったはずなのに、クラトスの姿がない。
外はもう真っ暗でベッドサイドにあるデジタル時計を見れば
リーガルと会った時間から軽く4時間程経過していた。
ガシガシと頭を掻いてベッドの柔らかさから離れる。
ぺたり、と床に足をつければひんやりしていて気持ちがいい、目が冴える。
ひらひらとレースのカーテンが舞っていて、バルコニーに続くドアが開いてる事を知る。
「閉め忘れかー?」
ぺたぺたと歩いて、ドアに手を掛けたところで視界に人影が見えた。
「…起きたのか、おはよう」
こちらを振り返ることなく遠くを見てるクラトスの後姿があった。
「ん、おはよ…リーガル達は?」
欠伸をかみ殺しながらクラトスの横まで来たところで、クラトスの服に違和感を感じる。
俺様が寝る前と格好が違う、今はゆったりとしたタオル地のナイトウェアに身を包んでいた。
「俺様起こしてって言わなかった?」
「あまりにも気持ちよく寝ていたようだったからな…
リーガル殿には断りをいれておいた。」
寝ぼけた頭を必死で動かす。つまり、俺様は置いていかれたんじゃなかった。
「なー天使サマ、ご飯行きたかった?」
ニヤけそうになる顔を必死で抑えながら、返事のないクラトスの横顔を見る。
クラトスの、横顔の奥に鈍く光る星がチラチラと見えて
テセアラの重暗い夜空より、シルヴァラントの澄んでてキラキラした夜空が似合うなぁなんて思った。
「クラトスは、さ…俺様の事好き?」
ごくり、と喉が鳴った。無意識に出てしまって引っ込めようがない。
今のナシ!って言おうと思ったけど、何故か言葉にならなかった。
「それはどういう意味で、だ?」
ちらりとクラトスの眼だけがこっちに向く。
どういう意味もこういう意味もない!と言ってやりたかったけど俺様は偉いから我慢した。
「そりゃ、エッチしたいって思う意味で?」
笑ってみせると、呆れたようなため息が聞こえた。クラトスが片手で顔を覆ってる。
「やっぱり頭がおかしくなったのか?」
「いや、なってないし俺様ふつーよ?」
惹かれるモノから目を背けるのをやめただけ。自分に素直に行動する事にしただけ。
「好き、ではないな…」
ため息と一緒に重たそうに開かれた口からは、予想通りの答えが出た。
「まー、そうだよなぁ」
俺様もつられてため息と一緒に吐き出した。
がっかりはしたが、諦めるつもりもなかった。
「…ルームサービス頼むけど、酒とか飲む?」
また沈黙に耐えられなかった。俺様のばかやろう。
小さく頷いたクラトスを見て背を向け、手を振って了解の合図をした。
ルームサービスが届いた事を知らせるノック音。
ガチャリとドアを開けてセッティングをしてもらう。
クラトスは相変わらずバルコニーに居るようで室内には戻ってきてなかった。
カチャカチャと豪華な料理が並べられるのを横目で見つつ
クラトスの作った料理の方が美味しそうに見えたなぁ、などと頬杖つきながら考えていた。
「クラトスー、メシにしよーぜー」
バルコニーの方へ向かって声を掛ければ、間を空けてクラトスが室内に戻ってきた。
俺様はガッツリ晩御飯、クラトスはお酒とフルーツ。
「朝のより高いだけあって美味しいわ」
食べる?と聞いても首を振りお酒を結構なスピードで飲んでるクラトス。
「なぁ、ペース早くね?天使になると酔いもしないとか?」
「分解速度は早いが酔わないワケではない、酔い潰れる事も可能だろう」
いつもより少し饒舌で心なしか穏やかな顔して飲む姿はほろ酔いなのだろうか。
「じゃー、酔い潰れたら寝れるワケか!天使も人間みたいに」
笑いながら言えば、クラトスは口端をあげながら頷いた。
これはこれで楽しいお食事会だ、2人っきりの。
「気になっている」
唐突にクラトスが発した。雑談の流れと結び付けようにも結びつかなかった。
「へ?な、何が?」
端的に話すのはいつもの事だが、会話が噛み合わない。
酔っ払ってる?と顔を覗き込むと普段より赤らんだ顔に
いつもと違って意思の強そうな眼ではなく穏やかな温かさを含んだ眼。
俺様の心臓が跳ねた気がして無意識に胸を押さえた。
「…おまえが、だ」
それはつまり、バルコニーでの会話の続きだったんだろうか。
心音がうるさくて集中できない、お酒を飲んだわけでもないのに顔に熱が集まっていく。
「好き、じゃねーのに?気になるだけ?」
お酒の入ったグラスを傾けてるクラトスの手首を掴んだ。
じわじわとクラトスの手の熱が感じられてまた心音がバクバクとうるさくなる。
「ああ…気になるだけ、だ」
クラトスはフッと笑い、俺様に手首を掴まれたままお酒を煽って喉を鳴らして飲み込んだ。
上下する、日に焼けてない白い喉が艶かしく見える。
「もしかして、俺様の事誘ってる?」
つい期待してしまう。酔った勢いだったと言われてもいい。唾をゴクリと飲み込んだ。
「私は女性じゃないが、いいのか?」
「俺様が柄にも無く緊張してるって、わかってるクセに」
笑いながらクラトスの手の甲にキスして見せれば、フフッと笑い声が聞こえた。
「俺様の気になってるトコ、全部知ってくれていーんだぜ?」
ぐいっと手首を引っ張って立ち上がらせれば、思いのほかクラトスの足取りはしっかりしていた。
つづく。
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